イチローのストレッチが教えてくれたこと

イチローのストレッチが教えてくれたこと

 2001年にMLB(メジャーリーグ)へ挑戦したイチロー選手のことは皆さんご存知でしょう。日本のプロ野球で7年連続首位打者の偉業を成し遂げ、アメリカへ渡ったのは27歳の時でした。その後、アメリカで10年連続200安打以上という、とんでもない記録を打ち立てました。つまり、27歳から37歳まで、世界最高峰の選手が集まるメジャーリーグで、年に一人出るか出ないかという200安打を10年も続けたことになります。ちなみに、日本のプロ野球で年間200安打の記録は、その長い歴史の中でわずか7度しか記録されていません。

 イチロー選手は37歳以降も現役を続け、45歳で引退。18年間のMLB選手生活で、故障者リスト入りしたのはたった1度だけ。それもWBCの日本代表として参加した疲労で、胃潰瘍になったためでした。つまり、ほとんどの選手が経験する筋肉系の故障では、ただの一度も故障者リスト入りしていないのです。トップ中のトップと誰もが認めるアスリートが18年間、筋肉系の故障で休んだことがない、なんて話は聞いたことがありません。この事実は、イチロー選手が日本やアメリカで打ち立てた数々の記録よりも、はるかに評価されるべき点だと思っています。

 イチロー選手の故障に対する強さは、単なる肉体の頑丈さではなく、その対策と試合前の準備の的確さが作り上げたものだと思っています。打席に立つ前のルーティンだった入念なストレッチは有名ですが、日常生活の中でも怪我予防の意識が強かったそうです。感情を爆発させて怪我をするリスクを回避し、クラブハウスでもソファに座って腰に負担がかかるのを避け、常に正しい姿勢を保つ努力を怠りませんでした。入念なストレッチによる柔軟な身体は、トップスピードで行うプレー中のさまざまな激突にも耐え、そればかりか、最高のパフォーマンスを引き出し続けたのです。同じプロアスリート同士、イチロー選手のストレッチの効用はMLB選手たちの間でも評判になりました。シアトルタイムズの記者が書いた本の中で、試合後に足の裏をツボ押し棒でケアするイチロー選手を見て「奴は魔法でも使っているんだろう」と、他の選手が話題にしていた笑い話がありますが、2001年当時のプロスポーツ界ではストレッチの重要性はまださほど知られていなかったのでしょう。

 お相撲さんの身体が柔軟であることは、日本ではよく知られた話。怪我防止のための股割りと呼ばれるストレッチは、相撲取りの基本中の基本です。投手としてMLBで活躍中の前田健太選手も、試合前に「マエケン体操」と呼ばれる、肩や肩甲骨をほぐす運動を行っています。イチロー選手やお相撲さん、前田健太選手に共通しているのはそのストレッチの重要性を、身をもって知っているという点。他人から見たら「なんか変な動きしている」と思われがちですが、それを継続することによって健康な身体を維持し続けられているのです。

 たった一度のストレッチで身体が柔軟になるわけではありません。継続は力なり、と言いますが、まさに“継続“がストレッチによる最大の効果を生むのです。50歳手前になっても、イチロー選手のスリムで柔軟さを維持し続けている身体が、それを教えてくれているような気がします。 

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